有害なる独身貴族

「こんにちは。先日お電話した片倉です。今日は来てくださりありがとうございました」

「アンタが……」


おじいちゃんは穴があきそうなほど橙次さんを見つめ、隣に立つ私と見比べて苦笑した。


「親子にも見えるな」

「そうですね。実際歳は離れてるんです」


さも大したことではないように橙次さんが答える。


「本当につぐみと交際しているのか?」

「はい」


うわわ。橙次さんたら、どこまで話したんだろう。
橙次さんは頷くと、私の肩を抱き寄せた。


「彼女は俺を支えてくれています。それを伝えたくてお呼びしたんです。どうぞ座ってお待ち下さい」


おじいちゃんはまだまだ質問したそうな顔をしていたけれど、橙次さんに促されるまま席に座った。


「まずはお召し上がりください」


と、橙次さんが厨房に戻ったしまったので、私は普段お客様にやるように、お冷とおしぼりを出した。


「……痩せたね、おじいちゃん」

「まあ、色々あってな。つぐみはどうだ。ちゃんと食べているのか」

「うん。ここのお鍋美味しいんだよ。食べ物は前よりずっといいもの食べてる」

「そりゃあいい」


目尻に皺が寄った。

昔から、声を立てて笑うことはないおじいちゃんの、さりげない笑顔。
懐かしくて、懐かしすぎて、切なくなる。


「……おばあちゃんのこと、本当にごめんなさい」


謝罪に対して、おじいちゃんは返事をしなかった。ただ静かに、私から視線をずらす。
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