有害なる独身貴族


 結局橙次さんのご両親の都合がつく日は週末しかなく、土曜日の営業を数家さんたちにお任せして、私たちは橙次さんのご両親に会いに行った。

 彼の実家は、電車で一時間程度かかるところにあり、駅付近のレストランで食事をしながらの顔合わせとなった。

四十歳の彼の親は当然のごとく六十歳を超えているはずだけれど、お父様は定年を迎えたとは思えないほどしっかりとスーツを着こなしていて、お母様も綺麗に髪を染め、上品なワンピースを着て、一見してそんな年配には見えなかった。

お互い関心しあわない、と言うのは本当らしく、
ご両親は、私には「こんなおじさんで本当にいいの?」とか「見かけにだまされるんじゃないぞ」なんて言っていたけれど、橙次さんには殆ど話しかけなかった。

橙次さんもそれで良しとしているらしく、「結婚したい」ということを伝えた後は、ただ目の前に出される料理を、片付けることに専念していた。


「まあ、仲良くやってくれるならそれでいいのよ。つぐみさんが若いのは心配だけど、振られるとしたら橙次の方でしょうから問題無いわ」


あっさりと言ってしまうお母様が、なんというかドライすぎて、私の親とは違った意味でとっつきにくい。


「今日はお時間とってくださりありがとうございました。近日中に籍を入れるつもりです」


最後にペコリと頭を下げると、少し戸惑ったように「嫌だわ、頭を上げて」と笑った。

悪い人では、無いのだろうと思う。
ただ、「事後報告でも問題ない」と言った橙次さんの言葉は理解できた。

出来てしまうことが、悲しいような気もした。


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