有害なる独身貴族


「はいはい、凄いです。天才です。でもその細工、必要ですか?」

「客が喜ぶんなら不必要ではない」

「ホントにお客様に出す気あります?」


これを一個一個作ってたら相当の時間がかかる。
店が回らなくなっては本末転倒だと思うけど。


「ま、確かに時間的には無理だよな」


意を汲みとったのか、にやりと笑って私の器にそれをポイと投げ入れた。


「え?」

「やる。ちびっこいんだから食え」

「もう成長期は終わりましたよ」


貰ってもな……。
どうすりゃいいのとは思うけど、これをまた返すのもなんかおかしいので口に入れた。

美味しい。細工で切り込みが入れられたせいか、味がしみてる。


「旨いか?」

「美味しいです」

「つぐみはこの手の料理好きだよな。他の居酒屋行ってもババ臭いもんばっかり頼むじゃん」

「ババ臭いって失礼な。ただ、普段出てくる料理がそういうのが多かったんで」

「へぇ。お母さん家庭的なんだ」

「や、逆です。作らないから、料理は私、おばあちゃんに習ってて」


作らないどころか、途中からはいなかったけど。

……話の流れが嫌な方向になってきた。
なんとか話題を変えたいなと思うけど、気の利いたことも思いつかなくて、食べる速度が遅くなっていく。


すると、店長が一人ごとのようにポツリと呟いた。


「今度の限定メニュー何にするかなー」


助かった、と思って話題に乗る。
そうそう、お仕事の話しましょう。それが一番。

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