有害なる独身貴族
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帰り際、「これですっきりしたな」と笑う橙次さんの手を、自分から握る。
「これから、ずっと一緒ですね」
「そうだな。これから籍入れに行こうか」
「橙次さん、気が早い」
「これでも待ったつもりだけど。結婚式はどうする?」
歌うように楽しげに言う片倉さんに私は笑って首を振る。
「呼ぶ人もいないし、いいですよ」
「まあな。それは俺もそうなんだが。つぐみのドレス姿は見たいかな」
「じゃあ写真だけ撮ります?」
「すっげ豪華なのな。今度見に行こうぜ」
その時、橙次さんの電話が鳴って、繋いでいた手が離れる。
スマホを押さえる長い指を見ながら、結婚指輪なら橙次さんの分もいるのかなぁ、なんて考えていたら、彼の声に焦りの色が加わったので、心配になった。
「つぐみ、悪いけど店に戻ろう」
「何かあったんですか?」
「光流からだった。相談したいことがあるから帰りに寄って欲しいって言うんだ。あいつが言うくらいだから大事かもしれない」
「大変じゃないですか」
あの数家さんでも対処できないなんて、一体何があったの?
私たちは顔を見合わせて頷くと、途中小走りになりながら、小一時間かけて店まで戻った。