有害なる独身貴族

 時間は二十二時を過ぎている。
普段ならラストオーダーをとっている頃なのに、正面にかけられた札はクローズとなっていて、鍵もかかっている。


「閉まってますね」

「でも中は明るいしな」


片倉さんは首をすくめて裏口へ回った。


「静かにしてろよ」


口元に指をあて、様子を窺うようにそろりと扉を開けると同時に、乾いた爆発音がした。
彼は咄嗟に私をかばうように抱き締め、私も思わず目をつぶる。


「おめでとうー!」
 

 聞こえてきたのは、想像とは全く真逆の言葉。薄目を開けると、クラッカーを持っている数家さんと高間さんの姿が見えた。

橙次さんの腕が緩んで、周りの音が鮮明になる。店内のBGMと同時に聞こえてくる、数家さんの声。


「おめでとうございます」

「どういうことだ、光流」

「店長のことだから、籍も入れてきたかな、と思って。お祝いですよ。……まだでしたか?」


それを聞いて、緊張していた橙次さんの顔から力が抜ける。


「お前の電話がなきゃ入れてたな」

「あれ、ちょっと早かったですか。すいません、読み違えました」

「いいよ。つぐみの心の準備もできてなさそうだったしな」


急に引き合いに出されて戸惑っていると、数家さんが私を手招きした。

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