有害なる独身貴族

馴れ初めを根掘り葉掘りききだそうと、私を囲むパートさん達に、「あんまりつぐみを困らせるな」と橙次さんが割って入り、ひゅーと冷やかしの口笛を吹きかけられる。

やがて、お子さんがいるパートさんがひとりふたりと帰り、私の座っているテーブルには、酔って潰れかかっている上田くんと、呆れたようにそれを見る店長だけになる。

気が付くと各テーブルに小さな集団ができていた。

数家さんは刈谷さんとまったり語らい合い、北浜さんと紫藤さんは高間さんと仲道さんと今までのメニュー遍歴について語り合い、馬場さんと茜さんが奥のテーブルでグラスを傾けている。

私は茜さんの方が気になって、こっそりと聞き耳を立てた。
大柄な馬場さんは静かにグラスを傾け、一方的に茜さんがまくし立てている感じだ。


「……いいなぁ。正直言えばちょっと不満なのよね。ふたりがうまくいったのはいいと思ってるのよ。ただ、……そんなすぐ結婚の話になったのがねー。なーんかさ、悔しいなあって」

「房野はちょっと家庭環境が複雑らしいので、そのせいでしょう」

「私だって複雑よー。シングルマザーだもん。でもダメなのよね。私って結婚したい女じゃないんだろうなぁ」


お酒が進んで、ちょっと愚痴っぽくなっているらしい。

確かに、橙次さんと茜さんの間にはある程度の関係があったんだから、複雑だろうなと思ったら、声がかけられない。ただ黙って、聞き耳を立てていた。


「まあ、あなたは男の趣味は悪そうですよね」


ボソリと告げた馬場さんに、茜さんはムッとして彼の頬を引っ張る。


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