有害なる独身貴族

「案外失礼ね、馬場くん。仕方ないでしょ、水商売している女なんて軽く見られて当然だもの」


唇を尖らせて、「どうせシングルマザーだし? 今から恋愛したいなんて過ぎた願望よ」とそっぽを向く。


「そもそもその考えが間違ってる。自分を安く見積りすぎです」


いつもより辛辣な言葉を吐く馬場さんを不審に思ってみていると、橙次さんがボソリと言う。


「あー、珍しく幸紀酔ってるな」

「あれ、酔ってるんですか?」

「ああ。あいつは顔に出ないんだけど、いつもより毒吐くときは酔ってる」


言われて再び二人に目をやると、茜さんが馬場さんの鼻をつまんで怒っている。


「馬場くん、今日口悪いわね」

「あなたは目も節穴ですよね」

「誰の目が節穴よ、失礼ねー」

「節穴ですよ。目の前にいる男のことも見えてないんだから」


馬場さんが、茜さんの手を掴んで彼女を見つめる。
茜さんは息を飲み、彼の真摯な視線に射すくめられている。

そこだけ、空気が変わったようで、皆がそちらに目を奪われた。


「な、……な、馬場くん?」

「あなたに甘えるような男ばっかり選んでないで、少しはこっち向いたらどうですか」

「は? ……え?」


意味が分からず困惑する茜さんに、爆弾発言をしてもなお飲み続ける馬場さん。
数家さんが、空気を察知してお冷を持っていく。


「馬場さん、落ち着いてください」

「落ち着いてるよ。前から思ってたことを言っただけだ」

「……だそうですよ、茜さん」


困ったように数家さんに言われて、茜さんの顔が真っ赤になっていく。


「そうだったのか、幸紀」

「私も知らなかったです。あの二人、接点あったんですか」

「茜は自由に厨房にも入ってきてたからな。ああでもそうか。言われれば納得するところもあるな」


きゃー、と冷やかす声をあげたのは紫藤さん。高間さんと仲道さんが固まる茜さんを可哀想に思ったのかこちらに水を向け、再び冷やかしの対象にさせられる。

その間に馬場さんは、戸惑う茜さんの手を引き、店の外へ出て行った。

茜さんも、幸せになってくれたらいい。

頑張れ、馬場さん。
祈るような気持ちで、心のなかでエールを贈った。

< 224 / 236 >

この作品をシェア

pagetop