有害なる独身貴族
「相変わらずお前が最後になるのな」
あははーと笑いながら座布団を出し、隣に座れと高間さんが座布団を叩く。
頭を下げてその座に収まると、向かいの席では馬場さんが無言のままおちょこを傾け、その隣の席では仲道さんが真っ赤になってヘラヘラ笑っている。
いつの間にか、こうして月に一度ほど、仕事終わりに店長抜きで集まるのが恒例となっている。
ちょっとした仕事の愚痴を吐き出したり、一応経営者である店長には言えないようなことを話す、いわゆるガス抜きタイムだ。
「待たせました?」
「いんや、三十分位だけど。なんだかんだと一番苦労性なのは数家だよなって話をしてた」
「嫌な盛り上がり方ですね」
苦笑したところで、本気で気の毒がってはいないだろう。
まあ、俺はこの中で年令が一番下だ。何を言われても受け流すのが賢い。
それに、店の合鍵を店長は俺に渡した。
そこは信頼されているんだろうと思うことにする。
「それより、新人ちゃんどうよ」
「まあ良い子なんじゃないですかね。ハキハキしてるし、何より立ち直り早いですし」
俺と向かい合うように体を斜めにして、高間さんが話しかけてくる。
先日、【U TA GE】に新しい従業員が入ってきた。
名前は房野つぐみ、二十二歳。
以前は建築系の事務職についていたという異色の経歴の持ち主だ。
募集は正社員とバイトの両方で、店長は社員で採用するなら男にすると言っていたはずだった。
しかし蓋を開けてみれば正社員で採用されたのは彼女だった。しかも、正式に入ってもらうまで一ヶ月の猶予付き。
これだけ優遇するところをみると、よっぽどの好みの美人だったのかなと、勘ぐったものだったが。