有害なる独身貴族
「なんかありました?」
「あ、飲みましょうよ、茜さん」
彼女は店の常連でもあるので、皆顔なじみだ。
近くのスナックで働いていて、仕事前に食べに来てくれることが多い。
「ごめんね、びっくりさせちゃって」
茜さんは、既に営業用の顔に戻っている。
この状態になられてから、状況を根堀葉掘り聞き出すのは骨が折れそうだ。
「……どうしました?」
隣の席の馬場さんが、お酒をつぎながらボソリと尋ねる。
「ううん。何でもないの」
「嫌なお客でもいました?」
高間さんの問いかけは彼女には救いの一手だったようで、すぐに笑顔になると陽気な声で話しだす。
「んー。そうね、そんな感じで。それにしても仕事終わりに皆で集まってるなんて知らなかったぁ。橙次も知らないんじゃない? 皆帰ったって言ってたけど」
どうやら店に寄ってから来たらしい。
だとすれば俺が出たすぐ後に来たのだろう。
そして今、彼女が一人でいる状況をみれば、店長と何かがあったのだろうというのは予想できる。
それは、高間さんも馬場さんも感じ取っているだろう。
でもこれ以上突っ込むのは得策とは言えないだろう。
「ま、飲みましょうよ」
女性関係に対しては色々思うところもあるけれど、基本俺たちは店長のことは好きだ。
あまりドロドロした話も聞きたくは無いので、終電ギリギリまで皆で飲んでその日は終わった。