有害なる独身貴族


 それから数ヶ月後。店長の迷走が始まる。

 
「光流、つぐみと飲みに行かないか?」


俺が高校時代の同級生と再会し、恋に落ち、あっさり振られたその後くらいから、やたらにこんな誘いが多くなった。


「俺と房野と店長で、ですか?」

「そうそう。行こうぜー」


メンツに疑問があるものの、逃げる理由もないといえば無い。
そんなわけで行った飲み会では、やたら房野の隣を勧められる。


「房野、酒飲めるの?」


丸顔な上に小柄だから、小さな女の子というイメージが強い。
成人しているのだから問題無いはずなのだが、ついつい心配になってしまう。


「はい。成人してからおじいちゃんと飲んだりもしました」


そんな彼女のグラスの中は梅酒。俺がビールで店長が烏龍茶だ。

誘っておいて何故飲まない。
別に飲めないわけでも無いくせに。


「光流は飲んでもたいして酔わないから安心だぞ。帰り送ってもらえよ。俺ちょっと待ち合わせがあるんだ」


挙句、どこかに電話をかけたかと思うと、30分後くらいに茜さんがやってくる。


「あらあ、楽しそうね」

「悪いな、茜。じゃあ俺先に帰るな。光流、つぐみを頼むぞ」

「はあ」

「店長、帰っちゃうんですか」


ちらり、と店長を見上げた茜さんは、勢い良く店長の腕に手を回す。

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