有害なる独身貴族

「そうね。じゃあ行きましょう」

「じゃあな」


店長が帰り、房野が拍子抜けしたように黙りこくる。
そんな風に元気を無くされると、こっちも元気づけなきゃいけない気がするというか。


「そういや、房野知ってる?」


昔店で起きたハプニングなんかを話すと、彼女もようやく調子を取り戻す。

……なんなんだろう、店長は。
俺が振られたから、気を使ってるのか?
だとしても何故房野を押してこられるのかが分からない。

確かに彼女は真面目で仕事っぷりもよく好感を持ってはいるが、あくまで仕事仲間としてのものだ。
まして振られたばかりの俺は、すぐ次の恋愛って気分ではなく、気が重いことこの上ない。


そんなことが何回か続き、しかも迎えに来る女性は茜さんとは限らず、茜さんの店の同僚だったりすることに、俺も若干苛ついていた。


「なんなんだと思います?」


いつものガス抜き飲み会で、高間さんにそんな相談をすると、同情したように溜息をつかれる。


「大変だなぁ。数家」


俺は深く頷くばかり。


「俺は、結婚相談所に就職した覚えは無いんですけどね」

「ははっ、確かに今の橙次さん、どこかのおせっかいおばちゃんみたいだよな」


本当に、余計なことはしないで欲しい。
しかも俺の目から見て、店長は明らかに房野を特別扱いしている。

恋愛じゃないけど特別な存在ってなんだ?
まさか隠し子だったりしないよな。

そう思いつつ、あながちハズレとも言い切れないと二人の顔の共通点を探してみたりする。

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