有害なる独身貴族
*
待ち合わせ場所では、先に店長が待っていた。
こちらの格好はオレンジ系のチェックのシャツにジーンズ。
おいおい、私よりラフじゃないかよ。
「お、つぐみ。カワイイじゃん」
「……そっちは随分若作りな」
「若いもんと出かけるんだから若作りするの当たり前だろう。さ、行くぞ」
当たり前なのか?
歩き出す店長の後についていく。
大きくて肩幅がある背中。
あの日見たものより、ずっと距離が近い。手を伸ばせば、触れそうなくらい。
「つぐみ」
「え? はい! なんですか、店長」
「外で店長って言われるのキライだから。今日は名前で呼べよ」
「え? あ、はあ」
名前でって言われてもなぁ。
「まさか覚えてないとか言わないよな」
「ちゃんと覚えてますよ! じゃあ片倉さんで」
「んー。……まあいいか」
不満気な顔をされた。
でも下の名前じゃ呼ばないでしょう、普通。
【U TA GE】の最寄り駅で待ち合わせた私たちは、電車に乗って二駅ほど移動する。
オシャレな町並みの中、浮きそうなほどラフな格好をしているのに、店長が風景に溶け込めるのはどうしてなんだろう。
自信あり気な表情のせいかな、この場に合ってるかなっていう迷いが全く感じられない。
むしろ、自分の色に周りを染めるみたいな空気感さえある。