有害なる独身貴族




待ち合わせ場所では、先に店長が待っていた。

こちらの格好はオレンジ系のチェックのシャツにジーンズ。
おいおい、私よりラフじゃないかよ。


「お、つぐみ。カワイイじゃん」

「……そっちは随分若作りな」

「若いもんと出かけるんだから若作りするの当たり前だろう。さ、行くぞ」


当たり前なのか?

歩き出す店長の後についていく。

大きくて肩幅がある背中。
あの日見たものより、ずっと距離が近い。手を伸ばせば、触れそうなくらい。


「つぐみ」

「え? はい! なんですか、店長」

「外で店長って言われるのキライだから。今日は名前で呼べよ」

「え? あ、はあ」


名前でって言われてもなぁ。


「まさか覚えてないとか言わないよな」

「ちゃんと覚えてますよ! じゃあ片倉さんで」

「んー。……まあいいか」


不満気な顔をされた。
でも下の名前じゃ呼ばないでしょう、普通。


【U TA GE】の最寄り駅で待ち合わせた私たちは、電車に乗って二駅ほど移動する。

オシャレな町並みの中、浮きそうなほどラフな格好をしているのに、店長が風景に溶け込めるのはどうしてなんだろう。

自信あり気な表情のせいかな、この場に合ってるかなっていう迷いが全く感じられない。
むしろ、自分の色に周りを染めるみたいな空気感さえある。


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