有害なる独身貴族


「え?」

「ちょっとブラブラしてくる」


そして、アッサリと歩いて行ってしまう。

ちょ、ちょっとちょっと、どうすりゃいいの。
人の財布開けるのって凄い抵抗があるんですけど。


「お会計、九千八百円になります」


だけど、店員さんがニッコリと金額を提示してくるので、戸惑ってばかりもいられない。
心のなかで「失礼しまーす」とつぶやきつつ財布を開けた。

お札は結構入ってる。
うちの店、そこそこ儲かってるのかな。

支払いを済ませ、出産祝にしてくださいとお願いすると、店員さんがカウンター下から見本を出してきた。


「お熨斗にいたしますか? おリボンで?」

「え、えっと。……普通出産祝いだとどんなもんでしょう」

「そうですね。ご親戚ならお熨斗の方が多いですね。お友達でしたら、おリボンだけで済ませる場合もございますが」

「えーっと」


店長を探してキョロキョロ見渡しても、見当たらない。

んもーさっきまでその辺に見えていたのに。
何処に行っちゃったの!

仕方なく、店員さんにちょっと待ってもらって電話をかける。


「もしもし片倉さん? 熨斗かリボン、どちらにしますかって」

『あ? リボンでいいよ。そこまで肩苦しくない』

「色は」

『つぐみに任せる』


それだけ言ってすぐに切られる。
何なのよ。誰の買い物なんだっての。


「……ったくもう。すみません、リボンで。色はこの……ピンクのやつで」


店員さんはにっこり笑って見本を下げた。


「はい。かしこまりました。仲よろしいんですね、彼氏さんですか?」

「え? いや」

「あらそうなんですか? ご夫婦に見えるくらい息ピッタリですよ。では包装しますので少々お待ちくださいね」


赤面する私を置いて、店員さんは作業台の方へ行ってしまう。

……店員さんなんて適当なリップサービスするんだから、気にする方がおかしい。

私と店長が恋人同士に見えるなんてあり得ないっしょ。
せいぜい兄妹か、ひどけりゃ親子だ。


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