有害なる独身貴族


「かしこまらずいつでも着ればいいじゃん。何なら何処か連れてってやるし。……なあお姉さん、これ、この子似合うよなぁ」


遠目に私達を見ていた店員さんは、店長に呼ばれて嬉しそうにやって来た。


「ええ、お似合いですよ。そうですね、小柄な方ですからこうやってベルトを使ってウエスト位置を上げてやるといいと思います。一度試着なさってみてください」


さすがはプロだ。
逃げようとしても言葉巧みに誘導され、結局私はそのシャツワンピを試着している。

寸胴体型が目立って嫌だなぁと思ったけれど、ベルトをつけてちょっといじるだけで、途端にバランスが良くなる。

思ったより子供っぽさがなくて、嬉しくなってきちゃったけど、値札を見て青くなる私。
いつも買う洋服の三倍ほどの値段がする。


「どうですか?」

「いいんじゃない。それですぐ次の男も探せる」


試着室から出ると店長はニヤニヤ笑っている。
私は脱いだワンピースを渡した。

何なのよ、次の男って。
別に私焦ってないし。
彼氏がそんなに欲しい訳じゃないし。

私より自分の心配したほうがいいでしょう。四十歳の癖に。


片倉さんはジーンズの後ろポケットに手を突っ込んで、あれ、という顔をする。


「やべぇ。どっかで落としたかな」

「片倉さん、お財布なら私が預かってますよ」

「おお、そうだったそうだった」


人に渡したことさえ忘れているとは、この人危機管理大丈夫なのか。

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