有害なる独身貴族


「つぐみは他のとこ見てろ」

と、突然にポイ捨てされるように背中を押され、店長は店員のお姉さんと楽しそうに話し始めた。

「そのピアス似合うね」とか、「いい香りするけど化粧? 香水?」とか漏れ聞こえてくる言葉がなんつーかもう聞いてるだけでイライラする。

ナンパかよ。
女連れて歩いている時くらい、他の女に声かけるのやめたらいいんじゃないの。

ああどうせ、私なんて女の部類に入りませんもんね!


イライラして、別のショップを見始めた。

可愛いなとかおしゃれだなとか思うけど、値札を見ていると気がひけちゃう。


百貨店って、私の居場所じゃないよな。

私は、今のお給料で自分を一生養っていかなきゃいけないわけで、余分なお金なんて少しもないもん。

生活費の中から、雀の涙ほどの貯金を捻出するのがやっと。

洋服に一万円以上出すのは理解できない。
スーツとかは仕方ないけど、普段着なら少しくらいダサくても、近くの店の二千円のシャツでいい。

ため息をついていたら、後ろから店長が追いついてきた。
紙袋が増えてるから、さっきの服、買ってくれたのかな。


「腹減ったな。次は飯行こうぜ」

「あ、はい」


時計を見ればもう十三時近い。
いつの間にこんなに時間がたったんだろう。


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