有害なる独身貴族


「この時間ならちょっとは空いてくるかな」と七階のレストラン街へ連れて行かれた。

「何食べたい、つぐみ」

「そうですねぇ。昼だし、こってりしたものでもいいなぁ」

「洋食か? ここのオムライスが有名だぞ」

「じゃあそれで」


平日とはいえ、人気店には行列ができている。
だけど、二人だからそれほど待たされずに、こじんまりとした席へ案内された。


「オムライスが食いたいんだよな?」


お水を持ってきてくれた店員さんに、片倉さんがオムライスとパスタのランチセットを一つずつ頼む。

手馴れているよなぁ、とお水を飲みながら思う。

まあ、あれだけ女の人が変わってるんだから、色んな種類の店にも行くのだろう、きっと。


「店長はここ、来たことあるんですか?」

「いや?」

「じゃあなんでオムライスが美味しいって」

「ああ。さっきの店員に聞いた」


さっきのって。……服飾売り場のあの人か?
服だけじゃなく食事の話までしたわけ?

この調子じゃ電話番号まで聞き出してるのかな。


「あーそうですか!」

「なんだよ。絶品らしいぞ。まあ食ってみろよ」

「分かりましたよ」


やがて運ばれてくるオムライス。

あの女の人が選んだかと思うとムカつくけど。

……でもいい匂いだな。
食べ物には罪は無いしなぁ。

恐る恐るスプーンを入れたけど、いつの間にか止まらなくなった。
美味しい。
ご飯はうっすら味がついていて、ソースと卵をからめることで味に深みが出る。

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