有害なる独身貴族


「美味しいです!」


思わず満面の笑みで言ってしまってハッとする。怒りがどっかに行っちゃったよ。
これだから子供って思われるんだ。


片倉さんはニコニコしながら私を見ていた。


「うまいもん食うと元気出るだろ」


そんな言い方されたら、まるで私のために美味しい料理を聞き出したみたいなんて都合のいい解釈をしちゃう。

なんか罠にハマったような気分で心の中が落ち着かない。


「パ、パスタは美味しいですか?」

「んー。こっちはまあまあだな。でもトマトソースってたまに食いたくなるよな。うちの店でも取り入れたいなー」

「トマトソースならミネストローネとかですかね」

「そうだな。でもこれから夏だしな、旬の野菜入れてぇなぁ」

「んーだとすると……」

「ラタトゥイユ」


最後は声が重なった。


「だよな。いいよな。ズッキーニとかナスとかいれてな」

「そうですね。一応鍋料理ですし」

「早速明日試作してみよう。後でスーパーも寄るぞ」

「はいはい」


結局、私と一緒だと仕事の話になるんだよな。

まあいいか。
この話してる時が、一番店長は楽しそうだし。

デートだなんてかしこまるより、私だってこの方が楽しい。


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