有害なる独身貴族
迎えた、十歳の秋。
その一年前から、二人は離婚についての話し合いを始めたらしい。
私の誕生日の直前辺りは調停を控えて家中がギスギスしていた。
その頃、タイミング悪く、私に追い打ちをかけるような出来事が起こった。
「皆さんは、今年10歳。つまり成人の半分になります。ここまでの成長の記録を作るために、お父さんやお母さんに昔の話を聞いて、プリントにまとめてきてください。そして家族への感謝の作文を書きましょうね」
いわゆる二分の一成人式というやつのはしりだったのだろう。
それを聞いた時、私は脳天にトンカチを打ち付けられたような気がした。
しかも、授業参観の日に家族の前で発表するとか、どんな嫌がらせかと。
授業だから仕方ない……とは思うけれど、勘弁して欲しかった。
離婚調停で険悪な父母に、私が生まれた時の話をしてなんて言えるわけがないでしょう。
どこもかしこも円満な家庭だと思ったら大間違いよ。
仕方なく一人でアルバムを見ていたら、珍しく帰ってきていた父親がため息混じりに言った。
「同情誘おうとしても無駄だぞ。つぐみ。俺は絶対離婚するからな」
アルバムの開いていたページは、ちょうど私が生まれた時の頃だ。
お父さんも、嬉しそうに笑ってる。
私があなたの娘だった頃の写真。
お父さんの頭のなかでは、もう違うんだね? なんて思う。
やがてお父さんがリビングに入っていくと、再びお母さんとの諍いの声がする。
私は耳を塞いで、母親のタンスから母子手帳を盗み出した。
結局、誰にも聞けなかった。
母子手帳やアルバムの走り書きを何とか組み合わせて、それらしい幸せそうな過去を捏造して提出する。