有害なる独身貴族
その発表がある授業参観の日は両親に教えなかった。
母親同士の会話でバレたらどうしようと思ったけれど、母が気づくことはついに無く、訝しがる友人や先生には「母の実家でどうしても外せない用事があって」と誤魔化した。
そして、私は捏造した作文を空々しく発表した。
『私が生まれた時、お父さんはとても嬉しかったそうです』
涙が出そうだった。
違うのに。
ふたりとも、私なんていらないって思っているのに。
『産んでくれてありがとう』なんていうまとめの言葉には、反吐が出そうになった。
今になって別れたいなんて言うくらいなら、結婚なんてしなきゃ良かったんだよ。
私が出来たから結婚した、なんて、勝手に責任押し付けないで。
今更私をお荷物扱いするくらいなら、アンタたちが私を殺せばいいんだ。
全てを白紙に戻すなら、私ごと戻しなよ。
参観後、友達は家族と帰っていった。
私は一人。
いたたまれなくて通学路を歩くのも嫌で、一本道をそれてブラブラしていた。
その時、あの川のある小道に入ったんだ。
狙ったかのように人気はなく、暮れていく陽は辺りに適度な影を落とす。
石を投げたら水面に波紋が広がった。
私が落ちたら、もっと大きな波紋が出来るかもしれない。
帰ってまた喧嘩の声を聞くのもまっぴら。
自分を必要がない人間だと思うのももうイヤだ。
こんな宿題を出した学校も先生も信じられないし、私の変化に気づかない友達ももういらない。
何より、自分が一番いらないんだ。
暗い水の色に呑み込まれてしまったように、私の思考はどんどん一点へと向かっていく。