有害なる独身貴族
確かにそうだ。
生にしがみついて何が悪い。
自分で自分を殺すなんて理不尽だ。
楽しい暮らしがないのも私のせいじゃない。
この作文用紙にかいたような幸せな家庭を作るのは、親の義務なんじゃないの?
彼が生み出してくれた、生きる理由。
この思いは、死ねなかった事を浅ましく感じた自分を力づけた。
「そうだね。君は正しい」
否定されると思ったのに、彼は肯定した。
張り詰めていた気持ちがふっと緩む。
「生きなよ」
驚くほど自然に、私の体へと浸透した言葉。
遠ざかる背中に、かけるべき言葉は思い当たらなかった。
代わりに、脳裏に焼き付けるようにして覚えた顔と名前を脳に刻みこむ。
絶対に忘れない。
いつかもう一度会うために。
生きるから。
ちゃんと生きるから、いつかまた会えたら、褒めてくれる?
私が生きるのは、あの日のあなたがいたからだよ。