有害なる独身貴族
その後、両親は離婚した。
どちらも私を引き取ることに渋り、選択は私に委ねられた。
「お父さんと一緒に行く」
そう言った時に返された、父の嫌そうな顔は忘れられない。
私が父を選んだのは、単純に顔が似ているという理由からだけだ。
母は私の顔が嫌い。
性格や態度は気をつければなんとかなるけど、顔だけは変えられない。
容姿で文句をつけられるのだけは耐えられないから。
そして父は、私を自分の両親、つまり私の祖父母のもとに預けた。
それまで、母が行きたがらなかったから祖父母とは疎遠だったけれど、会った時にいつも優しかったのは覚えている。
私はホッとして、そう感じたことに軽い後ろめたさを感じながらも、おでこをこすり付けるようにしてお辞儀をした。
「おじいちゃん、おばあちゃん、つぐみです。よろしくお願いします」
お願い。
追い出さないで。
いい子にするから。
私に居場所を作って。
「……頭をあげなさい、つぐみ」
おじいちゃんの低い声の、振動までも伝わってくる。
「自分の家でそんなに緊張してどうする」
その言葉に、頭を上げられなかったのは泣いてしまいそうだったからだ。
嬉しくて泣いているのに、誤解されたくなかったから。
その日入れてくれたおばあちゃんのお茶は、記憶にある中で一番温かくて、美味しい飲み物だった。