有害なる独身貴族
願い通り、それから私の家は祖父母の家になった。
元の家からは電車で三十分ほどの距離だけれど、父は殆ど会いに来なかった。
おばあちゃんが、呆れて電話をするとようやく声が聞ける程度。
私を不憫に思っていたのか、祖父母は私に優しかった。
授業参観にも来てくれたし、お弁当も嫌がらずに作ってくれた。
年頃の女の子の服は分からないからと、一緒に買物に連れて行ってくれて、何でも好きなモノを買っていいと言ってくれる。
嬉しかった。
やっと当たり前の幸せが手に入ったんだと思って、無くしたくなくて必死になる。
一番安い服、一番安い文具、家から近い学校。
私が何かを選ぶ基準は、お金がかからないこと。
咎めるような視線を向けた祖父母に、「これがいいの」と笑ってみせる。
母も父も、私には会いに来なかった。
それぞれに再婚し、私には片方しか血の繋がらない弟が二人、妹が一人できたらしい。
それも、後になってからおじいちゃんに聞いた。
「バカ息子だ」
と苦々しげに口にして、そしてそのままの視線で私を見た。
「……バカ息子とバカ嫁が、責任も持てないくせになぁ」
暗に、私のことを言われているのだろうなとは思った。
生まれてこなければ良かったのに、とはおそらく祖父母とも思っているのだろう。
ただ、私が可哀想で言えないだけだ。
それでも良かった。
祖父母との暮らしは温かかったから。
家を綺麗にする方法、沢山の料理、穏やかな休憩の時間をとること。
全部おばあちゃんに習った。一緒に、同じ空間で教えてくれた。
私は、おばあちゃんが大好きだった……。