有害なる独身貴族
考えながら拭いていたガラスは気がつけばピカピカ。
もう磨くところもないけれど、中に二人がいると思うと入りにくい。
「はっくしゅん」
時折吹き付ける風も寒い。
風邪を悪化させるわけにはいかないから、裏口の方に周りそこを掃く。
ここなら、ビルが風よけになってくれてそこまで寒くないしね。
やがて、店の扉が開いた音がして、茜さんのけたたましい笑い声が聞こえてきた。
「じゃあ頼むわね、橙次」
「はいよ。毎度あり」
「ふふ、またデートしましょうね」
「おう」
楽しそうに手を振って、茜さんが再びパンプスの音を鳴らして歩いて行く。
デートって……やっぱりヨリを戻したのかなぁ。
店長の言い振りを聞いていると、誰とでも本気の恋愛はしてなさそうだけど、茜さんとはなんとなく相性良さそうだよなぁ。
う、いたた。
なんだか胃が痛い。
好きだなんて自覚する前は、彼女の存在だってちょっとモヤモヤしただけで気にせずにいられたのに。
見送った店長は辺りをキョロキョロし始めた。そして、私を見つけると怒り肩で近づいてくる。
うわ、なに? 怒ってる?
「こら、つぐみ」
「わっ、なんですか。すみません。さぼってたわけじゃ……」
「風邪気味なんだろ。いつまで外にいる気なんだ。早く入れ」
あ、そっち?
ホッとしたのもつかの間、首根っこをひっつかまれるような状態で引っ張られる。
「ちょ、店長、一人で歩けます」
「うるせぇな。とっとと来い。お前冷たくなってんじゃねぇかよ」