有害なる独身貴族
「ちゃんとブラインドタッチできるんだな」
「ええ」
「前、事務職? そう考えると不思議だな。房野はなんでウチの店に来たんだ?」
おっと、そこ突っ込んでくる?
どう返そうか迷って、「食べに来たら美味しくて、なんかハマっちゃったんですよ」と無難に返答する。
「ふうん」
数家さんは興味があるのかないのか、そのまま会話を流して、事務室の奥の鍵付きの棚から何やら取り出したり、事務所を出たり入ったりしていた。
私がキーボードを叩く音だけが響く十分。
出来上がって、張り詰めていた息を吐き出す。
「数家さん、出来ました」
「ん。……ああ、いいね。しっかり出来てる。房野早いな。これから文書作成は房野に頼もうか」
「はは。書くことが決まっているならいいですけど」
「これはこのまま印刷かけて、次にラベルだな。ラベル用のシールがこっちで……」
プリンターを前で、数家さんの作業を眺める。
鍵付きの引き出しからラベルシートを取り出し、プリンターにセットする。
次にパソコンのラベル印刷ソフトを立ち上げると、既に入力の終わっているデータが出てきた。
「今回はモニターさんの変更がないからこのまま印刷でいいよ」
「はい。じゃあ印刷します」
吐き出されるシートには、モニターさんの住所と名前が書かれている。
刈谷さんちもあるや。
それを今度は封筒に貼り、先ほど印刷した案内状を折って入れていく。
「後で作るチラシも入れるから、封はまだしなくていいよ。切手だけ貼ろうか、買い置きがあるから」
「はい」
数家さんが出してきたのはシールタイプの切手だ。こんなのもちゃんと買い込んであるんだなぁ。