有害なる独身貴族
「ほらね。送るだけなら俺にだってできますよ。お任せください」
上田くんが胸をはる。
送るって……もしかして私の話してるのかな。
「それは知ってる。だけど、お前は油断ならなさそうだから嫌だ。そのままサボるんじゃねーの」
「しっつれー、店長。どうせサボったって給料から差っ引くんだからいいじゃないですか。俺時給制ですもん。それに店のこと考えたら、情けないけど俺が一番いなくなっても困らないでしょう」
「ちっ、まあな」
「店長、その理由に納得しちゃダメですよ。上田も自分でそんなこと言うなよな」
ホントだよ。それでも店長か。
そこで頷いたら上田くんが役立たずって言ってるのと一緒じゃん。
ホント気配りって点では、数家さんの方が上っていうか。
……って、私も呑気に寝てちゃだめじゃん。
もともと私が元気になれば済む話よ。
「……あの、私なら大丈夫です」
声をかけながら上半身を起こすと、三人の視線が一気にこっちを向く。
心配、興味、驚き。いろんな感情がないまぜになった視線に、どんな顔で答えるのが正しいのか分からなくて、ぎこちなく笑ってみる。
「房野さん、大丈夫っすか」
「大丈夫じゃねーだろ。顔色悪い」
心配そうに寄ってくる上田くんと、威圧するように睨んでくる店長。
うーん、態度が対照的。
「どうやら房野は随分我慢強いみたいだけど。立って歩いてご覧。それができたら一人で帰ればいい」
そして冷静に、試すような顔で語るのが数家さん。
なんか……数家さんが一番大人な対応だなって思っちゃうんだけど。
まあでも、挑まれたら戦うまで。ちょっと頭はふらつくけど、立てないわけじゃない。