有害なる独身貴族
起き上がると、息が荒いのが自分で分かる。
熱かな。実際にはなんてこと無いのだろうけど、耳の下の辺りが膨らんでるような感覚がある。
これなら早く帰らないと。店にいたら迷惑になっちゃう。
立ち上がると軽くふらつくので、足に力を入れて踏ん張った。
「ほら、大丈夫ですよ」
立って数歩歩いて笑ってみせる。
無理をしてでも歩けるじゃん。倒れた直後より良くなってる。大丈夫大丈夫。
そんな私を見て、数家さんはちょっと困った顔をして店長に目配せする。店長は腕を組んでため息をついた。
「上田、タクシー呼べ」
「え? はい」
「つぐみを送っていけ。行きはタクシー、帰りは電車で帰って来い。ほら」
店長は財布を取り出すと一万札を上田くんに手渡した。
「店長、私大丈夫ですってば。ほら歩けるし」
「うるさい。お前は黙って送られろ。帰ったらちゃんと布団で寝るんだぞ。上田は家にいれなくていい」
「大丈夫ですってば」
困った。店長が全く私の話を聞いてくれない。
彼は私を睨みつけると、憮然とした態度で続けた。
「俺が店主だ。俺のいうことを聞け」
でも今、店主とか関係なくない?
そうは思うけど、反論するほど頭も回ってない。
仕方なく黙っていると、店長は私の足元にかがみこんでさっきまで私の体を覆っていたジャケットを拾い上げた。
「……着てけ」
「あ、ありがとうございます」
これ、店長のだったんだ。
受け取って手に持っているとなんでか睨まれる。
どうしようかと悩んで、袖を通したらようやく「よし」と言われた。