有害なる独身貴族
黒のパンツは最初から履いてきていたので、シャツを着替えればいいだけだ。
私は自分用にあてがわれたロッカーを開け、手早く着てきたシャツを脱いだ。
と、その時、ドカドカと足音がする。
あ、ヤバイ。
すぐ着替えられると思って鍵は閉めなかった。
まあでも、心ある人ならちゃんとノックしてくれるから大丈夫か。
慌てて、制服のシャツを羽織った瞬間に、店長が勢い良く入ってきた。
ああ。来たのは心ない人だった。がっくりとして言葉も出ない。
「……あれ、つぐみ」
店長は、目をぱちくりとさせて私の顔をみる。
と、その後、視線は下に向き、私のはだけた胸元の辺りで静止した。時が一瞬止まる。
「あの、着替え中……」
「……ああ。鍵かけろよ、そういう時は」
店長は表情も変えないまま、慌てるでもなく言ってのけて扉を閉めた。
こっちが慌てるっての。
私はボタンを二、三個止めて扉に近づいた。
「すいません。すぐ終わるからと思って。店長こそノックしてくださいよ」
もういなくなってたらどうしようかと思ったけれど、返事は扉の向こうからすぐ聞こえた。
「女なんだから気をつけろよ。今鍵をかけろ。今すぐ」
「はあ」
でももう、見られてまずい格好は終わったんだけど。
「早くしろ」
あまりにせかされるので鍵を回す。
ガチャリという音に満足したように、「よし」という声が聞こえた。
「それにしても、きゃーとかなんとかないのか。俺だったから良かったけど」
会話は終わらないようだ。
私は残りのボタンを止めながら反論する。