有害なる独身貴族
「似てるなー。親って言っても通りそう」
「……そうですか?」
「大人数の兄弟の末っ子とかなら、このくらい年配の母親とかいるんじゃね」
それは。
私が願い続けたこと。
おばあちゃんの孫じゃなくて娘だったなら、どれだけ幸せだったんだろうって。
「……うん」
喉に切ない感情がこみ上げてきて、目頭がじわりと熱くなる。
やっぱり片倉さんは不思議な人だ。
意識なんてしてないだろうに、私をひょいっとすくい上げてくれる。
ダメだって。泣かない。
人前でなんか絶対に泣かない。
「よし、食ったな。薬飲めよ」
「ごちそうさまでした」
両手を合わせているうちに、茶碗を持っていき、洗ってくれる。
ふと、落ちているビニール袋の陰に、先ほど上田くんから貰った携帯電話の番号を見つけて自分でもぎょっとなった。
か、か、隠さないと。
いや、隠さなきゃなの?
よく分からない。
「さて。じゃあ帰るか。つぐみ、そのジャケット脱げよ。俺、着て帰る」
「え? あ。すみません。でも汚しちゃったかも。クリーニングして……」
「いらねぇよ。寒いのは今だ。おまえも俺が帰ったら着替えろよ。そして鍵を……」
私から奪い取ったジャケットを羽織りながら、片倉さんは足元のメモに気づいたらしく拾い上げる。
「なんじゃこりゃ。……上田のやつか」
「心配してくれたんですよ」
「上田はやめとけよ。頼りなさすぎる」
「なんですかそれ」