有害なる独身貴族
そりゃ、私だって上田くんのことはなんとも思っていないけど。
それを片倉さんにとやかく言われる筋合いは無いだろう。
「もっといい男、探してやるから」
さっきまで温かかったのに、今の一言は私の心臓を斬りつけて凍りつかせた。
「余計なことしないでくださいよ。私もう恋愛なんてどうでもいいんです」
「よくねぇだろ。いい男と結婚して幸せな家庭を作るのは女の幸せだろが」
結婚も出来ないアンタがよく言うよ。
「だとしても店長に心配してもらう筋合いはありません」
内心イライラしてそう言うと、片倉さんも唇を結んで「あるよ」と答える。
「俺は店長だぞ」
だから。
今店長とか役職関係ないから。
反論しようと思ったところで、肩に手がのせられる。
「おまえは、安定した収入のある男と結婚して幸せになれ」
まるで、おばあちゃんの気持ちをなぞったような言葉に、声が詰まって何も言えない。
その一瞬の間を置いて、片倉さんの手が離れる。
“だったら、あなたがいてくれたらいいじゃない”
言えない思いが、胸に湧き上がって。
だけど口に出すことは無いまましぼんでいく。
「じゃあな。俺が出たらちゃんと鍵かけろよ」
返事を聞く前に部屋を出て、締めた扉の外で「早く鍵かけろー」と叫ぶ片倉さん。