有害なる独身貴族
なんなの。
おせっかいならいらないよ。
こんな、夜中に部屋に来て甲斐甲斐しく世話やいてくれて、挙句の果てにいい男と結婚しろってなんなの。
私の事、好きじゃないなら構わないでよ。
放っておいてくれたらいい。
そうしたら勝手にあなたに救われて、私は一人で幸せになれるのに。
あなたの言葉の方向が変わると、ばかみたいに傷ついてしまうじゃない。
「つぐみ、ちゃんと閉めろー」
「分かってますよ!」
潤んだ声がバレないように、怒鳴るように言い切って、私は鍵を回した。
ガチャンと音がなると、私と彼の間にある壁が決定的になった気分がする。
ドアノブを抑えながら、私は彼の足音に聞き耳を立てた。
去っていく足音。
行かないで。
行ってしまって。
相反する感情が、まだ熱い頭のなかで回っていく。
好きなのに。好きだから。
だから見せつけないで。
その気がないなら優しくしないで。
お願い。
「……甘やかさないでくださいよ」
絞り出した声は、涙とともに足元に落下した。
彼が私の事子供のようにしか思っていないのは分かっているのに。
優しくされる度に心が疼いて期待してしまう。
「えっ、ええええん」
私はこの日、久しぶりに声を出して泣いた。