有害なる独身貴族
「叫べなかったのは驚いたからですよ」
つーか。アンタこそ人のブラ見ておいて、眉ひそめるってどういうことよ。
どうせ貧相な胸ですよ。
店長が一緒に出かけるような胸のおっきいお姉さんたちから見りゃガキでしょうけどよ。
大体、俺だったから良かったってなんだ。
あなた以外だったらちゃんとノックしてくれるんだから、こんな事件も起こらないっつーの。
声の調子から私が怒っていると思ったのか、店長はなだめるように言った。
「まあ、落ち着いたら出てこい。光流には言っとく」
「はあ」
そう言われると、すぐには出づらい。
仕方なく、緩慢な動作でエプロンを身につける。
この後どうしよう。
恥じらわなきゃいけないのかな。
でもなんか、あんな風に普通に反応されたら、照れてるこっちが馬鹿っぽいっていうか。
でもへこんで見せたほうが今後ノックするようになるかなぁ。
いやいや、でもでも。
ぐるぐるぐる、いろんな方向に思考は回るけど、結論が出ない。
ああもういいや。どうせ店長だし。
私のことなんて、女というよりは子どもとしか思ってないだろうし。
着替えを終えて荷物を入れたロッカーを閉め、私ははあとため息をつく。
それにしても、店長の口から出るのは数家さんのことばっかりだなぁ。
禁断の愛を疑うレベルだ。