有害なる独身貴族
『生きろよ』
もう優しい人はいなくなってしまった。
だけどたった一人、希望を与えてくれる人がいる。
彼は私を覚えてなくても、私は彼の声に支えられている。
昔も、今も。
「……生きるもん」
しょっぱいご飯を食べきって、その足で実家に向かった。
おじいちゃんが渋い顔で私を迎えたけれど、「お線香だけつけさせて」というお願いは聞いてくれた。
「……俺は、文彦のところに行くことになった」
「え?」
「家事はばあさん任せだった。この数日だけで家の中はボロボロだ」
「じゃあ」
私と一緒に。
続けたかった言葉は、おじいちゃんの冷たい眼差しの前に凍りついた。
「……俺は、お前が許せん」
「おじいちゃん」
「お前が悪くないのは重々解ってる。それでも、……許せん」
涙が視界を揺らす。
喉が乾いて声が出せなかった。
「すまん。つぐみ」
最後に、おじいちゃんは私に頭を下げた。
それが決別の合図だったのだろう。
それ以来、私はおじいちゃんに会っていない。
本当の一人ぼっちになってしまった私は、すがるように【U TA GE】に電話をかけた。
『ああ、房野さん』
「あの、……明日からでも働かせてもらいませんか」
『ん。待ってたよ』
電話越しの片倉さんの言葉に、どれほど救われたか分からない。
私の居場所は、まだここにある。
もう一度、ここで、私は頑張るんだ。