有害なる独身貴族


手の甲に雫が落ちた感触で、記憶の底から浮上する。


まだ、思い出すだけで涙が出る。
おじいちゃんの冷たい目が、鋭利さと冷たさをもって斬りつけてくるよう。

おばあちゃんが死んだのは私のせいだ。

温かかったあの家が無くなってしまったのも、おじいちゃんに憎まれるのも、当然の罰。



頬を伝う涙を拭って、湯のみを洗うために台所に向かった。


私には、もう【U TA GE】しか居場所がない。
おじいちゃんには嫌われてしまったし、父と母に関してはこっちから願い下げだ。

幸せとは何かを考えたら、今のまま【U TA GE】にいられることが一番。

店長が好きでも、振り向いてもらえないのは分かってるんだから期待しない。
それより、店のために必要な人間だって思ってもらえたら、嬉しい。

それでいいじゃない?

私は役に立つ従業員になる。
数家さんみたいに、店長から信頼されるような人に。

今度こそ、恩をアダで返すような真似はしない。


だから、恋愛はもういいんだよ。

ねぇ、片倉さん。
だからこれ以上、私の心を揺らさないで。


< 88 / 236 >

この作品をシェア

pagetop