有害なる独身貴族
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翌日、夜出勤だけどいつもより二時間ほど早く家を出た。
紙袋に洗ったタッパを入れて、駅前にあるナチュラル雑貨のお店に入る。

お世話になったし、お礼を渡すくらいはおかしくないと思うんだよね。

店内は夏に向けて、爽やかなディスプレイになっている。

あんまり気張ったものもおかしいし、ハンカチか入浴剤とかがいいかなと思ってきたけれど、ハンカチは男性物がおいてなかった。

ぐるぐる店内を回りながらクールジェルでできたアイマスクを見つけた。
ペンギンの形も可愛いし、片倉さんがこれを使ってるの想像すると楽しくなる。

いい。
リラックスしている時くらい、可愛いグッズと戯れるのはご愛嬌だよ。

会計を済ませて、包んでもらってから手持ちの紙袋にしのばせる。

タッパを返す感じでさり気なく渡せば、ちゃんと受け取ってもらえるよね。


「……あ」


ウキウキしながら店を出てすぐに、上田くんのことを思い出した。
上田くんにはわざわざ送ってもらったのに、店長にだけお礼したら変かな。

慌てて戻って、二百円くらいの入浴剤の詰め合わせを買う。

なんか、値段も露骨に違うけど、まあいいや。
だって店長は二度も来てくれたし、ご飯も持ってきてくれたもん。

あ、でも、上田くんも水とか薬とか買ってくれたんだっけ。

うわ、どうしよう、忘れてた。


手に持った入浴剤の詰め合わせと、紙袋に隠された店長へのお礼の品。


……どうしよう、というか。
あからさまに自分の気持ちの比重を表してしまっている。
これって一緒に渡すには気まずくない?

でも、結構時間が経ってしまった。
今日は一時間位早く店に入って、少し挽回しなきゃと思っていただけに、もうのんびりしてる時間がない。


「いいや。代金は払えばいいし」


無理やり納得して、雑貨屋さんを出て駅に向かう。

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