有害なる独身貴族
最初からそう。
ここに入ってすぐ、店長が私にくれたのは「光流の言うこと聞いてれば間違いないから」という丸投げ宣言だった。
まあ、それは正しかったとは思う。
数家さんは店内の様子をつぶさに観察し、なおかつ、厨房との連携など全体を見つめて私達従業員に指示を出してくれる。
自分の接客姿勢に自信を持ってのびのびと働く彼はとても印象がよく、無意味に触ったりしてこない清潔感も含めて、彼のことはすぐに信用できた。
別に接客が好きでここに入ったわけではなかったけれど、プロ意識の高い彼を見ていたら、接客っていい仕事だなぁ、プライド持って仕事するのっていいなぁって思えて。
この店を支える一員として、彼のようになりたいと思った。
だから私も、何かあればすぐに数家さんに相談するようになった。
でも別に、異性として意識していたわけじゃない。
そもそも、私は結婚願望もなければ恋愛至上主義でもないし、どちらかと言えば男なんて信用していない。
でも、彼のことは尊敬していたから、店長から見れば気を許しているように見えたのだろう。
「いい男だろ。光流」
ある日、店長がからかうように私に言った。
「……まあ、そうですね」
「今は好きな子いるみたいだけどな。まあどう転ぶか分からんから、もうちょっと頑張ってみな。振られた時がチャンスだろ」
何の話だよ、と思って見つめていると、店長が小首を傾げる。