腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
ツカサさんはカウンターに片肘をついて、軽く目を閉じている。
「眠っちゃいましたか?」と隣に立つと、ゆっくり目を開いて、
「やっと、来たね。もう一杯飲んだら帰ろうって、思ったところだよ。」とため息を吐いた。
「ウサギ、ずいぶん迷った?僕は無理をするつもりはないけど…いや、
もう、我慢できる気がしないっていうのが本音かな。」と私の顔を見る。
「初めから、迷ってはいません。ただ、着替えるのに時間がかかっただけです。」と言うと、
ツカサさんは、もう1度大きくため息を吐いて、バーテンダーの人に、
「チェックをして」と立ち上がって、部屋のカードキイを見せた。

私の手を掴んで、ツカサさんは歩き出す。
「も、もう帰るんですか?」と聞くと、
「明日また、来ればいい。僕は部屋に戻りたい。
…僕が何も考えずにBARでお酒を飲んでいられたわけないだろう。
ウサギが、本当は僕の事なんて好きじゃないのかもしれないって、何度も何度も考えた。
ウサギは僕の気持ちが本当にわかってる?」
と言って、エレベーターに乗った後は押し黙った。
ツカサさんが怒っている。
でも、ツカサさんの顔は、今にも泣き出しそうな子供みたいだ。
エレベーターは音を立てずに下降して行く。2人きりだ。
「私は、ツカサさんが好きです。」と言って、ツカサさんの首を抱いて、背伸びをしてキスをした。
ツカサさんは驚いている。
今まで、こんな事はしなかったから、だろう。
これ以上好きになってはいけないって思ってたから、
自分からツカサさんに触れないようにしていた。
でも、もういい。
今夜で終わりだから。
いくらでも、触っていいよね。
「好きです。ツカサさん」ともう1度言って、唇を重ねたら、
ツカサさんが強く抱きしめて、深くくちづけしてくる。
私の目から涙が溢れた。
ずっと、自分からキスしたかったみたいだ。
今更気付いた。
そう思いながら深く唇を重ね、舌を絡めあった。



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