腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
僕はウサギの実家の前に車を止め、何度か深呼吸をしてからチャイムを鳴らした。
「ハイ。どなた?」と女性の声。きっと、ウサギのお母さんかな。
僕はインターフォンのカメラに映るように正面を向いて、
「僕は美雨さんと、同じ病院に勤める、救命医の菅原と言います。美雨さん、御在宅でしょうか?」とできるだけ、はっきりと聞こえるように返事をする。
50代くらいの女性がドアを開け、僕をじっと見る。
「美雨さんと、お付き合いさせていただいています菅原と言います。美雨さんは御在宅でしょうか?」といったら、
お母さんは少し笑って、
「この間、美雨を送ってくれた人?」と聞くので、
「はい。この間はご挨拶できなくてすみません。」と頭をさげると、
「いいのよ。美雨は私に見つかりたくない時にあそこにタクシーを停めるの。
あなたの、その車、エンジンの音ががちょっと、特殊ね。
だからね、車が家の前に止まった時すぐにわかったわ。
美雨はお昼に急に帰ってきて、部屋にこもってるわ。多分寝てると思う。
喧嘩して、迎えに来たって事かな?」と笑いかけて、玄関に招き入れてくれた。
僕はウサギが無事に見つかって深い安堵の溜息がが出た。
でも、
ウサギ、タクシーはとっくにばれてるぞ。…僕の事もか。

「家にはいる?」とお母さんはスリッパを出してくれたけど、
「すみません、ずいぶん濡れてしまったので、このまま上がるわけには…」と言うと、
「もしかしたら、美雨を探してたの?」と言われ、僕が黙ると、
「やれやれ、困った娘ね。」と僕の顔をじっと見て、
「あなた、シオン君に似てるって言われない?」と言った。やっぱり親子だ。
「美雨さんにも最初に会った時そう言われました。」と僕は笑顔を作る。
「もう少し、リサーチしてもいいかしら?」とお母さんが聞くので、僕はうなずく。
「ずいぶん、年上に見えるわね。きちんとしているし、
でも、美雨はあなたの事を私に隠してた。なんでかしら。」と僕に聞いてくる。
「僕は今、34歳です。1度結婚に失敗しています。そのせいでしょうか。
なんで紹介されないのか僕には分かりません。」
「奥さんだった人と、もう会っていない?子どもは?」と聞かれたので、
「前の妻は、他の男性と再婚していて、離婚以来会っていません。子どももいません。」と言った。
「ふうん。じゃあ、美雨以外にも他に付き合っている人は?」とさらに突っ込んだ質問だ。やれやれ。
「美雨さんとキチンと付き合いだしたのは先月ですが、
半年前から知り合っていて、その時から僕は他に付き合っていた人はいません」と言うと、
「じゃあ、何でだろう?」とお母さんは首をひねる。僕だって、知りたい。
僕はクシャミがでた。
寒い。これは熱が出そうだ。おかあさんは、慌てて、タオルを渡したくれる。
「美雨さんの顔を見たら、帰ります。」と僕がいうと、お母さんは2階に上がって行った。


< 138 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop