腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
僕はダウンコートを選んで、マフラーをぐるぐる巻いて、外に出る。
とりあえずウサギには僕のダボダボのスノーボード用の上着と、ぶかぶかのスノーシューズを履かせる。
ウサギはサンダル履きで、コートも持って来ていなかったから、
寮に寄らないと、仕事には行けないでしょう。
一緒に車に乗り込み、寮に向かう。
僕のAMGは雪国仕様(実家は冬にたくさん雪が降る。)の四駆になっているし、
雪道には慣れているから、心配ない。
雪の積もった晴れた道路はほとんど車がいなくて、スムーズに寮に着いて、
ウサギを待つ間に近所のコンビニにいることにした。

昼のサンドイッチを選んでいると、
「ツカサくん」と声がかけられた。放射線科のゆりちゃんだ。僕は笑いかける。
「ツカサくんがなんで、このコンビニにいるのかなって思ったけど、看護師寮の前だったかなって思いついた。
上手くいっているのかな?」とにっこり話しかけてくる。
「おかげさまで。」と笑うと、なるほど。と頷いた。
「ゆりちゃんはどうしてここにいるのかな?」と
「今日は雪だから、旦那の四駆で出勤する途中です。」と話していると、
「ゆり、これも買って。」と僕の後ろから声がかかる。その声に僕は驚いて、振り向く、
「柳部長?」
「なんだ、菅原か?また、ゆりの奴が若い男を引っ掛けてるのかと思ったぞ。」と笑った顔に、僕は
「ええっ!?」と大声が出てしまう。
「菅原先生、紹介する?私の旦那さんです。」とゆりちゃんはにっこりした。
柳部長は
「先に車にいる。」と笑って、コンビニを出て行った。
ゆりちゃんは茫然としたままの僕に
「5年前から付き合ってて、去年、部長の子供が欲しいって言ったら、籍を入れてくれた。
バツ2のオヤジですけど、5年かかって、仕留めました。」とにっこりした。
「…いや、オヤジが再婚したのは知らなかったな。」と僕はまだ、驚いた顔のままだ。
確か2度目の離婚から、15年もひとりだったはずだと思う。
「院長とリュウ先生しか知らないはずよ。
本当はリュウ先生の仲人の時に私のお披露目だったけど、
あの人達、仲人立てなかったでしょう。」と笑う。
「菅原先生の仲人の時にお披露目って事になってる。」言って、
「いや、全然、予定は立ってないけど。」と、唖然とした顔で答えると、
「そうなの?頑張ってもらわないと。…ちなみに菅原先生との事は言ってません。
まあ、他にも、寝ただけの男なら結構いたし、あの人も、すごーく遊んでいたので、
その辺はリセットって事になってるけど、
籍を入れる時、お互い他の異性と関係を持たないって、約束したの。
私はあのオヤジに他に女が出来たら、
殺してやるって言ってあるので、しばらく大丈夫だと思ってる。
あのヒトもそれでいい。って言ってたし。
きっと、あのオヤジも私の周りに目を光らせてるんじゃないかな。
ツカサくんと話してただけで、様子を見にきてる。」と笑いながらレジに向かう。
やっぱり、恐ろしい肉食獣だよ。ゆりちゃんは。と呆れる。
あの親父はエネルギッシュに仕事もこなす分、遊びも相当だった。
オンナだって、絶対、何人もいたはずだ。
(院内では、そうないと思うけど、飲み屋のママとか、プロパーのオンナとか、キャバクラの彼女とか、
噂だけなら、同じ時期に5人以下って事はないはずだ。まあ、それで、2回も離婚してるわけだし。)
そんなオヤジを手なづけたか。
「あ、そうそう、ツカサくん、結婚式は後、3ヶ月後にしてね。
妊娠初期だから、安定期に入ってからって事で。
じゃあね。」と手を振って、コンビニを出て行く。
おい、勝手なヤツだな。
オヤジが運転する、馬鹿でかいドイツ車のSUVに乗り込んで、いなくなる。
オヤジィ、これから父親するのか?今、54、55歳だったか?
凄い。おれには到底真似できない。

スマホに連絡があったので寮に迎えにいく。
ウサギが赤いショートコートに黒のロングブーツを履いて走ってきた。
短いキュロットスカートに黒いタイツが覗く。
可愛い。
ゆりちゃんに会った後だと、余計可憐に見える。
好きになったオンナがウサギでよかった。と僕は大きくため息を吐いた。








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