腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
第10章 ウサギの攻撃

その31。ミウ

その日の夜。
ツカサさんはバラの花束を持って帰ってきた。私の年と同じ本数の大きな花束。
ツカサさんは長いくちづけの後、
「ヨーロッパや、アメリカじゃ、恋人に花を贈る日って事らしい。」と少し、照れて笑う。
とてもいい匂いだ。すごく嬉しい。
真っ白い花瓶まで用意して買ってくるツカサさんはよく気がつく大人だ。
大きな花瓶に入れて、どこに飾ろうか悩むと、ツカサさんが
「寝室に置いたら、いい匂いかな。」と言ったので私も頷く。
あんまり暖房の効いた部屋だと、お花がすぐ萎れてしまいそうだし、
ちょうどいいかもしれないと思う。私がバラの花に顔を埋めて何度も匂いを吸い込んでいると、
「僕にチョコレートはないの?」とツカサさんは着替えながら、私に催促してくる。
「病院でもらって来なかったんですか?」と上目づかいでツカサさんを見ると、
「たくさんもらったけど、休憩室のおやつに置いてきた。
僕が食べたいのはウサギとウサギのくれるチョコレートだけだよ。」とにっこりする。
私は嬉しくなって、ツカサさんの腕にそっと触れると、ギュっと抱きしめてくれた。
「チョコの前にウサギを食べておく?」と耳元で囁いてくるけど、
今日は張り切って、ご飯も用意したのだ。
真っ赤な顔になる私にクスクス笑うツカサさんの手を引いて、リビングに戻る。
コトコト煮込んだビーフシチューに小エビと茹でタマゴとアボガトのコブサラダ。
ほうれん草とベーコンは少し生姜を効かせて炒めてある。
テーブルに料理を並べると、
「美味しそうだ。ウサギは随分と料理が上手くなったね。」と言ってくれて嬉しい。
私は微笑んで
「あと、ガトーショコラも奈々さんに教わって作ったんですよ。」
と言ったら、嬉しそうに笑って、
「リュウがウサギが家に遊びに来てるはずだって言ってた。奈々ちゃん、元気だった?」
と、私の瞳を覗く。
私はうなづきながら、奈々さんは「特別」とそっとため息を吐く。


食後にツカサさんがコーヒーを淹れてくれて、
ガトーショコラをお皿に出すと、
「初めてのバレンタイン。手作りのケーキってうれしいな。」
と私の前に立ってギュっと抱きしめて、頬に唇を付けて、
「ウサギ、僕が好き?」と私の瞳を覗く。
私が赤くなって、大きく頷くと、満足そうに笑って、
「ウサギは僕のもの?」と確認してくる。
私はツカサさんの瞳をを見つめてもう一度頷く。
心配性なオオカミ。恥ずかしいから、何度も確認しないで欲しい。
「約束。」と言って、私の右手の小指に金色に指輪をはめた。
ピンキーリングだ。綺麗な透き通ったピンク色の石が付いている。
もう1つのシンプルな指輪を私の掌に乗せて、
「僕にも付けて。」と言ったので、
「…ずっと一緒にいて下さい。」と言うと
「はい。」と笑って、私に右手の小指を差し出して
「指切りの印。だよ。」と私の小指に絡め、私の指輪の上にそっとくちづけした。





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