腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
僕は、
「そうでしたか」と茫然と返事をした。
「柳先生が、仲人をするって言っていた。君は親の許可もなく結婚するつもりでいたのか?」
と機嫌の悪い声で聞いてくる。
「仲人の話は勝手に部長が言っているだけで、
美雨さんとはまだ、結婚の話は出ていません。」と慌てて言うと、
「君はいい加減な気持ちでうちの娘と付き合っているのか!」と声が大きくなる。
「ちっ、違います。僕は美雨さんとの結婚についても、もちろん考えてます!…ですが…」
「ですが!?ですがなんだ!?」と僕を睨む。
僕は諦めて、本音を言うことにする。
「美雨さんはまだ、22歳ですし、仕事にもやっと慣れてきたところです。
まだまだ勉強も必要でしょう。
僕は、お聞きになったでしょうが、1度結婚に失敗しています。
医師になりたてだった僕は仕事に夢中になりすぎて、
家にいる妻だった人を放っておきすぎた。と思っています。
今は、仕事も軌道に乗って、医師としてやっていけそうだと、
気持ちに余裕が出てきているつもりですが、
僕の仕事は忙しくなれば、なかなか帰れない日もあるでしょうし、
不規則な勤務で、毎週週末に休めるわけではありません。
もし、美雨さんと結婚したら、寂しい思いをさせることも、あるでしょう。
彼女が風邪をひいて寝込んでいても、
休みを取ってそばにいてあげる事もできないでしょうし、
もし、子供を持ったとしても、
いつも子供をお風呂に入れるような育メンになれるとは思えません。
ですから、しばらく一緒に暮して
それでも、いいかなって。
美雨さんが思うようになってくれてから、結婚については話そうと…」
と、僕の言葉を遮って、ウサギが
「結婚、してもらえるんですか?」とポロポロ涙を流している。
僕は慌てて、
「一緒に暮らしたいって言ったのは、いつか結婚したいっていう事だよ。
君がもう少し、大人になって…」
「…いつかって、いつですか?
私と、いつ、結婚したいと思うんですか?」ウサギは声が大きくなる。
「僕はいつだって良いんだよ。もう、34歳だし、君に付き合って欲しいって言った時には、
その前に十分悩んだし、僕から別れるって事は決してないって思ってるよ。
君みたいに真っ直ぐな子に、良い加減な気持ちじゃとても好きだって言えない。
僕の準備はとっくに出来てる。
僕は君がいない人生は考えてないよ。だから、ゆっくり考えて。
僕は自分がこのまま好きな人は出来ないかもって思ってたから、
君を好きになって、君も僕を好きだって言ってくれて、一緒にいたいっていってくれた。
それがすごく嬉しいんだ。幸せだって思ってる。
君が僕と結婚したいって思うまで待つよ。ずっと、何年でも。」とウサギの顔を見ると、
「ツカサさんが今まで付き合ってきた人たちのように、
私がオトナの女になるまで待つんですか?」と怒った顔だ。
「そうじゃないよ。僕は今の君が好きななったんだから。」
と僕は首を横に振って、ウサギに言い返す。
「今の私でいいなら、今すぐ、結婚してください!」とウサギは僕の顔をまっすぐに見た。






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