腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ

僕はあっけにとられる。ご両親も口を開いたままだ。
ここでそれを言う？両親の前で？
僕は急に恥ずかしくなって、真っ赤になった顔を片手で覆う。
「待って。」と上を向く。
「僕は、エンゲージリングの用意もまだだし、
ちゃんとプロポーズしたいから、ちょっと待って。」
と嬉しくて、笑顔になりそうな顔を抑える。
ウサギは僕の右手をつかんで、小指についている指輪を抜き取り、自分の右手の薬指にはめる。
「きっと、ちょうどいいって、思ったんです。
プロポーズしてください。」と泣き笑いの表情を浮かべる。
ちょっと待て、
「ちょっと待って、ダイヤの指輪はいらないの？」
「まだ、ダイヤモンドの指輪は似合いません。この指輪がいいです。」と、僕を見つめる。

僕は言葉が出ない。
ウサギは
「…待てません。結婚しなければ、何年も他の女の人に囲まれるツカサさんを見ることになるんでしょう？」
と、ポツリと言った。
今まで黙っていたお母さんがぷっと吹き出す。
「やっぱり、モテるのね。かっこいいし。」と言って、
「将来はずっと、あの病院に勤めるの？実家に帰るって予定はないの？」と僕の顔を見る。
「僕は実家が東北にありますが、弟の家族が両親と住んでいます。
弟は区役所に勤めていて、農協に勤める父と
兼業農家っていうのをしてくれていて、跡取り息子っていう立場です。
家を出た僕には入る隙間はありません。
離婚してから、出来損ないの息子。っていう位置付けですし。
僕は都会過ぎないこの町が気に入っています。
仕事もやりがいがあります。
救命医で、あの病院に勤める限り歩いて病院に行ける場所にしか、住居を構えるわけにはいきません。
ですから、何もなければこの町に住み続けていくつもりです。」と言うと、
お母さんは微笑み、
「理想的ね。私達は美雨のそばで暮らせるわ。
美雨が必要な時には手助けもできる。」と夫の顔を見た。