腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
「バツイチオオカミは卒業か?」とお父さんが僕の顔を見る。
僕はポカンと口が開いてしまう。
まあ、そうか。
病院で僕の話を聞けば、そんな噂も聞くだろう。
なんて返事をしたらいい?
放心状態の僕に
「初めから、ツカサさんはオオカミなんかじゃありません!」とウサギが大声を出した。
お父さんは目を細めてウサギをみる。
「ちょっとしたヤキモチだ。」とニヤリと笑って、
「柳先生に案内されて、病児保育室の休憩室で、君の上司のリュウ先生に会った。
手術した患者は助かったかと聞いたら、
命は取り留めたけど、きっと、意識が戻らず、亡くなるだろう。
時間稼ぎをしただけだ。と言っていた。
でも、意識がなくても、声が聞こえることがあるっていうのは
経験上知っている。家族の声を最後に聞かせたい。と言ってたよ。
自分は突然死にそうになったら、君に時間稼ぎをしてもらうって言ってた。
最期に妻の声を聴きたい。そう言ってた。
君はあの男に信用されているんだな。
そして、君は美雨のことになると
オトナのくせに右往左往して、格好悪い。
でも、そんな君が気に入っていると言ったよ。
その部屋には君の知り合いがたくさんやって来て、好き勝手なことを僕に話したけど、
誰もが、最後は美雨を任せて大丈夫だと言った。
あそこで美雨はウサギって呼ばれているんだな。
美雨の居場所は君がいる場所だ。
君の覚悟を見せてくれ。」と僕に笑いかけた。


僕はウサギに向き直り、
「僕は君の笑顔が好きだよ。君の笑顔を1番近くで見ていたい。結婚してください。」と言った。
ウサギは大きく頷いて、僕に飛びついて、また、ぽろぽろ涙をおとした。
僕はウサギをぎゅっと抱きしめたまま
「必ず大切にします。美雨さんと結婚させてください。」とご両親に頭を下げた。

「…美雨がそんなにその男が好きなら、仕方ないから、許すか。母さん。」と言って、
「バツイチオオカミは廃業してくれ。」と僕に釘を刺した。僕は
「はい。」と頷いた。

とっくの昔からオオカミなんかじゃないとおもうけど。と僕は心の中で呟いた。





< 167 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop