腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
僕は勤務の後、病児保育室の休憩室にひとりで座ってぼんやりする。
僕はウサギの足の速さについていけてないぞ。
リュウがやって来て、
「ウサギに捕まったな。」と笑う。
「俺とナナコでウサギにアドバイスしておいた。」と言う。なにを?
「きっと、菅原はウサギを傷つけたくなくて、身動きできなくなってる。
ウサギにとって、早すぎる結婚だって思っているのは菅原だ。
バツイチオオカミの噂を気にしているのはきっと、菅原の方だ。
ひとまわりも年が上ってことを気にしているのも菅原だ。
だから、遠慮なくドンドン進めていいよ。って言っておいた。」と真面目な顔だ。
僕は驚いて、言い返す。
「ウサギが周りからいろいろ言われないようにしようって僕が考えてたのに?
ウサギが傷つかないように守りたいって思ってたのに?
なんで、そんなこと言うんだよ。
きっと、ウサギは周りにいろいろ言われるだろう、
仕事を始めたばかりの半人前なのに結婚なんかしてって、
ひとまわりも違うバツイチオオカミにに騙されてるだけなんじゃないかって、
そう言われないように、どうしたらいいかって、僕は考えてたのに。」と僕は声が大きくなる。
「ウサギを見くびりすぎだぞ。菅原。
ウサギだって、お前を傷つけたくなくて、守りたいって思ってるって
どうして気がつかないかな。
ウサギはお前だけに悩ませたくないんだよ。
そばにいて、一緒に乗り切りたいって思ってるんだよ。
夫婦ってそういうもんだろ。」とリュウは静かに言った。

そうか。
ウサギは僕を守りたいって思ってたのか。
そばにいたいって思ってくれたのか。
そうか。
だから、どんどん1人で先をいったのか。

「愛されてるな。菅原。」とリュウは笑って、部屋を出て行く。
僕は涙が出てきた。

ウサギがやってくる。
「リュウ先生に呼ばれて、ツカサさんを迎えに来たんですけど。…ツカサさんどうかしたんですか?」
と、俯向く僕に、心配そうな声を出す。
「腹が減りすぎて痛い。」と嘘をついて両手で顔を覆う。
おせっかいな友達だ。
こんな顔ウサギに見せられるか。
「今日の夕飯、まだ考えていませんでした。」とウサギは焦った声を出す。
「…今日はウサギの卵焼きが食べたい。」僕の好きな元気の出る卵焼き。
「卵買ってあります。お腹が空いてるんなら、急いで作りますね。」と笑った声だ。僕の好きな声。
「ウサギ、大好きだよ。」と顔をこすってからウサギを見る。
「私もツカサさんが大好きです。」とにっこり笑顔をみせた。僕の好きな笑顔。
僕はウサギを抱き寄せ、
「帰ろうか。奥さん。」と言うと、
「はい!」とウサギは元気よく返事をした。
< 175 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop