腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ

結婚式当日。
控え室にすっかり用意が終わった私は両親に挨拶をすませ、
1人で鏡の前に座っている。
ツカサさんはシルバーのタキシードに着替え
（本物のアイドルのようにカッコいい。）
挨拶をして回っているみたいだ。
私は繊細なレースで作ったバラの花が散りばめられた
真っ白なミモレ丈のビスチェドレスに身を包んで、
肩までのベールを被っている。
髪飾りもチュールで作られたバラの花を形どったものにした。
ツカサさんはビスチェドレスのむき出しの肩に難色を示したけど、
ベールを少し透けないモノにして、やっと、許可が出た。
（ツカサさんは思った以上にヤキモチ妬きだ。
仕事中でも私が男性と話しているのを見つけると、
用事もないのに私に声をかけてくる。）
ブーケはピンクの生花のバラが使われていて、とても可愛らしい。

ツカサさんに出会ってから、今日までの事を思い出す。
私とツカサさんはちょうど1年前に非常階段で出会って、
私はすぐにツカサさんが好きになったけど、
その気持ちが恋だと気づくのに時間がかかった。
私にとって、恋は初めてだったし、
ツカサさんはオオカミと呼ばれるオトナだったので、
私を本当に好きになってくれるなんて思っていなかったから。
ツカサさんに何度も愛してるって言われて、
気持ちを通い合わせたのは、身体を重ねた後だったけど、
今はとても幸せだ。
心配性なオオカミは私の側にいつも寄り添うようにいて
私に何度も愛してると囁いてくれる。
ちょっと甘やかしすぎだ。

私達が出会った非常階段は
また、新しくやった来た新人達の大切な場所になるかもしれない。
そうそう、
奈々さんとリュウ先生もあの場所で、10年以上も前に出会ってると、最近知った。
恋が生まれる伝説の非常階段。
そんな噂があるらしい。
しおりんがそっと教えてくれた。

しおりんは西野先生とやっとお付き合いを始めた。
西野先生は結構お調子者だけど、しおりんには慎重で、真剣だ。
この間やっとキスをしたって、しおりんが報告してくれた。
「ミューはとっくに結婚したっていうのに。」と不満顔を見せるけど、
結構、幸せそうだ。