腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
式の担当の人が
「時間です。」と父とやって来た。
父は仏頂面だけど、きっと、内心では嬉しいことを私は知っている。
「あの、オオカミが嫌になったら、いつでも帰ってこい。」とポツリと言う。
「だから、オオカミじゃ、ないってば。
絶対、帰りません。」と私は怒った顔で、父と腕を組む。
「まあ、案外、あの男は信用できる。」と笑って、一緒に歩き出す。
実家に帰ると、一緒にお酒を飲む息子が出来てちょっと嬉しそうだ。
(ツカサさんはお酒に強いので、いつも父が先に酔っ払って眠ってしまう。)
「当然です。私が好きになった人ですから。」と私はちょっと赤くなって俯いた。


チャペルの両開きの扉が大きく開かれる。
結婚行進曲が流れ出す。私は1歩ずつ、ツカサさんに近づく。
柔らかい大好きな笑顔。
ツカサさんは父に
「一生大切にします。」と約束して、私の手を取る。
ツカサさんは
「美雨の笑顔を僕の全部で守るよ。」
と耳元でそっと囁いてから、一緒に前を向き祭壇の前に立った。
私は涙が溢れ出す。ツカサさん、誓いの言葉が早すぎです。
ツカサさんは私を覗き、ベールの上からそっと、私の頬に唇をつける。
「菅原あ、誓いのキスはまだ早い。手の早いヤツだ。」
と笑ったリュウ先生の声が響いて、周りで笑い声が起こる。
私は顔が赤くなる。
「うるせーよ」と振り返らずに小さな声で言う、ツカサさんは笑顔だ。
神父さんの咳払いで、静かになって、やっと、式が始まった。
私はとても幸福だ。
私はツカサさんと一緒に生きていく。
式の始まる前に、私もツカサさんの横顔に心の中で誓った。
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