腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
その人は階段をゆっくり降りてくる。
ちょっと、気まずそうに笑って、
「ゴメンね。脅かすつもりはちっともなかったんだけど、
呼び出しの電話来ちゃった。」と私の顔を覗き込み、
「ゆっくり、ご飯食べて。」と笑いかける。

エンジ色のビブスに
白衣を羽織った年上の男の人。
ビブスの色はは各科で揃えられていることが多い。


その茶色いくるりとしたくっきりとした瞳、
キュッと口角が上がった口元。
背が高くって、細身で、茶色く染められた短い髪。
私は思わず見とれて、
「シオン君」と声を出してしまった。
アイドルグループ、ストームのメンバー、紫苑(しおん)君に
ものすごく似ている。


その人は怪訝そうな顔をした後、
「元彼?まあ、可愛い歌声に免じて
今の発言は聞かなかった事にしておくよ」
と言って、またかかってきたピッチに
返事をしながら、非常階段を出て行った。


私はパニックだ。
なんで、ここにいるの?
私の泣き声も、歌声も聞いていたの?
誰だったんだろう。
私はどうしたらいいの?

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