腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
救急外来に着くと、
内科病棟から、桜子先生と、ナースのリーダーが慌ててやってきた。

東野桜子。38歳。
推定165センチのモデル体型、長いストレートの黒髪を揺らす。
パッツン前髪と一重の大きな瞳の美人。
日本人形のような容姿をしているが、
言いたいことはドンドン言って、男勝りの性格、未来の院長。
できちゃった婚で、3歳年下の壮一郎さん(僕と同い年だけどずっとオトナ。)と
6月に盛大な子連れ披露宴を挙げた。
リュウの同期で奈々ちゃんと仲がいい。
そして、5年目ナース、森本今日子。奈々ちゃんの年下の友人だ。
推定162センチ、細身。猫科の顔立ち。
こいつも遠慮ない、口の悪いヤツ。
奈々ちゃんの事故で亡くなった恋人の妹で、
僕の友人のひとりでもある。まあ、喧嘩友達って感じかな。

桜子先生は、偶然CT室に僕がいた幸運に感謝して、
患者の様子をみにいった。
今日子ちゃんはウサギの頭をクシャッと撫でて、
「頑張ったね」と褒めていた。
ウサギはホッとしたのか、ポタポタ涙落として、
泣き声を我慢していた。
やれやれ。
子どもは手がかかる。と、
僕がウサギの顔をみると、ウサギは
「ありがとうございました。」と僕にピョコンと頭を下げた。
「僕は仕事をしただけだよ」と言っておく。
今日子ちゃんに
「また、飲みに行こう」と笑いかけると、
「奈々ちゃんを誘いただけでしょう」と眉をひそめて呆れられた。
まあ、図星ですけど、
僕は肩をすくめて、患者の経過を、ウサギの代わりに説明した。


< 24 / 185 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop