腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
日勤が終わって、19時。
ちょっと遅くなった。ウサギはもう帰っちゃったかな?


非常階段に着くと、緊張した面持ちで、ウサギはぼくを待っていた。
「天野 美雨です。先ほどはありがとうございました。」
と深く頭をさげた。
まあ、さっき名札はチェックしておいたから知ってる。
ウサギは
「もう、ここにきて、菅原先生のお邪魔はしませんから、
安心して、休んでください。」と僕の隣を通って、出て行こうとするので、
慌てて、ウサギの手首を掴む。
ウサギは真っ赤になって、口をパクパクする。
声が出ていない。
「待って」と言ってから、ゆっくり掴んだ手を離す。
「ここは、君にとっても大切な場所でしょう。
僕は時々しか使ってないし、君が来たら交代で出ていく。
だから、気にせずここに来て欲しい。」
と、この間から言うつもりだった言葉を言う。


ウサギは驚いた顔でそれでも嬉しそうに
「本当に、また来て良いんですか?」と僕を見上げた。
頬骨のところにソバカスが浮いている。化粧っ気のない顔。
笑うと口角がキュッと上がって、二重の黒目がちの瞳が綺麗だ。
明るい表情が、チャームポイントかな。

きっと、もう少し大人になって、
もう少し仕事になれたら、
きっと、男どもに人気がでるだろう。
と僕は観察する。
でも、子どもだ。
ひと回り(12歳)も違うと、保護者の気分だ。
健やかに成長して欲しいもんだ。
と心の中で思う。





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