腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ

しおりんは、西野先生に連れて行かれてしまった。
先輩達はそれぞれに挨拶しながら、新しく用意された席に
バラバラに座った。
私の近くに席を取った、杉田先輩が、リュウ先生の隣にいる人に
「奈々さん、こんばんは。お邪魔します。」と挨拶する。
やっぱり、奈々さんだ。私も続いて、
「初めまして、1年目の天野です。よろしくお願いします。」
と緊張しながら挨拶したら。
奈々さんは柔らかく微笑んで、
「杉田さん、久しぶり。お姉さんっぽくなったね。
天野さん。初めまして。尾崎奈々です。」とエクボを見せて笑った。
凄く綺麗な人だ。
くっきり大きな茶色い瞳。口角の上がった柔らかそうな唇。ウェーブを描く茶色の長い髪。
細い身体だけど、女らしいラインをしていて、大人の女の人だ。
…菅原先生や、リュウ先生が好きになってしまうのもうなづける。


奈々さんの前に座った救急外来の主任看護師の涼子さんが、
「天野さん。足の具合はどう？」と聞いてくれる。
「すごく良くなりました。片足で立ったりしなければ、
もう、大丈夫です。」というと、奈々さんが
「菅原先生におんぶされたっていうのは、あなたかな？」と
面白そうに笑った。恥かしい。涼子さんが
「菅原先生ったら、すっごく不機嫌な顔をしてて、笑ったわ。」
と奈々さんに笑いかける。
私が、菅原先生を怒らせたのかと、心配になると、
奈々さんが、私に
「菅原先生は恥ずかしかっただけよ。
あなたが心配することはないわ。」と笑いかけてくれる。
私の表情が曇ったことに直ぐに気づいてくれたんだろう。
すごく気配りのできる人なんだな。と思った。
奈々さんはその後も、
杉田先輩や、私が退屈しないように、何度も話しかけてくれたり、
食べ物を取り分けてくれたりしてとっても優しい。

リュウ先生は奈々さんの顔を何度も覗き込んで楽しそうに笑っている。
すごく仲がいいご夫婦だ。

奈々さんは、素敵なひと。
菅原先生が好きになったひと。
今でも好きなひと。

私はまた息苦しい。
なんでかな。
さっきまではなんともなかったのに。