腹ぺこオオカミはご機嫌ななめ
階段に並んで一緒にお弁当を食べる。
昔、憧れた公園デートのようだ。
非常階段に座ってしまうと、無機質な階段と柵しかみえないけど、
心が弾む。
今日はコンビニにで買ったものでしかお弁当は
作れなかったけど、気に入ってもらえたら、、
次は頑張りたい。
おにぎりに、卵焼きに、ウィンナーにプチトマト。
幼稚園児のお弁当みたいだけど、
卵焼きだけはたっぷり入れた。
卵焼きはネギを先に炒めて、香ばしく焼いて、
卵で包む様にしてあって、醤油と砂糖で味をつけて、
ふんわり焼いてある。
寮に入る前、何度も練習したから、大丈夫のはずだ。
ただ、甘い卵焼きが苦手だったらどうしよう。
今更、思いついて不安になる。


「うん。美味いね。」と菅原先生が卵焼きを口に入れて
言ってくれたので、ホッとする。
「よかった。」とため息が出る。
「そんなに自信がないの?」と菅原先生が笑ったので、
「家では料理したことなかったから。」と言うと、
「僕は実験台かな?」とクスクス笑う。
「そっ、そんなつもりでは!」と慌てて言うと、
「冗談だよ。」と言いながら、おにぎりを頬張った。
男のひとって、食べるのが早い。
菅原先生はみるみる食べ終わって、
「ご馳走様。」と言って、お茶を飲んで、
私が食べるのを見ている。
恥ずかしい。

私が食べ終わると、
立ち上がろうとしたので、
「あのっ、また、作ってもいいですか?」と言ったら、
菅原先生は、少し考えて、
メモにアドレスを書いて私にくれた。
「たくさんお弁当を作りたくなったら、連絡して。」と言って、
ああ、と呟いて、ポケットから飴を3つ取り出し、
ひとつは自分の口に入れ、
「今日のお礼。」と私の手のひらに2個置いて、
階段を降りて行った。

飴を口に入れると、
辛いミントと、甘いミルクの味がした。

さっき、胸に耳を当てた時ほんのり香ったのは
この飴のミントの匂いだなってそう思った。

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